ひこうき雲

ぽにょから5年ぶりに宮崎駿の映画が上映される。
その『風立ちぬ』 のもったいぶった宣伝の仕方があざとくて商業主義に走りすぎ、
巨匠宮崎駿の作品を汚しているようで凄く気に入らなかった。
そんなことをしなくても名作はちゃんと評価される。
ファンを馬鹿にするな。
宮崎駿を馬鹿にするな。
そんな想いからだ。

大体最近のジブリ作品は話題先行で、
奇をてらった声優の起用や宣伝手法が私には邪道に映っていた。
それだけ鈴木プロデューサーが凄腕だったということなのかもしれないが、
私は純粋に作品だけを楽しみたかった。
だから作品以外の装飾や宣伝がノイズでしかたなかった。

良い作品を作るためには金がいる、
そんな甘い考えだけでは映画は作り続けられない、
と言われればそうかもしれない。
その割に宮崎さんの陰で高畑さんは自由にやっているが(笑)

それだけ私にとって宮崎駿は特別だった。

そして今日金曜ロードショーの中で、
初めて4分間の予告編を見た。

そのしょっぱなに主人公が「風」を朗読した。
凄いと思った。
いきなり引きこまれた。
なんだか異常にリアルなのだ。
凄くいい。
はまっていた。
しかし次の瞬間この声が庵野さんだと気づき、
ちょっと萎えた。
この声を庵野さんがやっていると前宣伝で散々聞いてしまっていたので、
その印象が変にノイズになってしまった、私にとっては。
この事は作品を見てから教えて欲しかった。

そして続いて松任谷由実の「ひこうき雲」が流れてくる。

誰がこの歌を見つけてきたのだろう?
この作品のために書き下ろしたかのような曲だ。
この歌だけで完全に心を引きつけられ持っていかれた。

私も戦争は知らない。
しかし昭和の時代は知っている。
今のように便利で車や機械やなんでもある時代ではない。
柔らかい自然と暖かい人間関係が生活の全ての世界観。
それでも今より心が豊かだった。
そんな時代の織りなす風景の映像に感傷的になる。
懐かしさ。

そして宮崎さんには珍しい大人の恋愛を主軸にしたストーリー展開。
この菜穂子さんは実在しないオリジナルなキャラとか。
ある意味卑怯だ(笑)

ただ、
噂ではこの予告編を映画館で見た多くの人が感動して泣いたと聞いたが、
正直それはどうなの?って感じがする。
そこまで内容が分かる予告じゃない。
そこまで感情移入できるほど手の内は晒されていない。
よっぽど想像力が豊な人が多かったとみえる。

しかし、宮崎駿ファンの私としては、
宮崎作品の中でこれだけ感情を全面に押し出した作品は初めてだったので、
かなり衝撃的だった。
今まで敢えて宮崎さんが避けてきた手法だ。
むしろ高畑さんの方が作りそうな作品だ。

確かに子供には分かりづらいかもしれない。
しかし大人にはベタで感情移入しやすいかもしれない。
特に40代以上には。
そんな気がした。

そんな感情的で感傷的なストーリーを軸に、
震災、戦争、ゼロ戦、飛行機の設計にかける夢と人生。
その中に込めた宮崎駿の現代への「生きる」という事のメッセージ。

そこには今まで宮崎駿がより多く手がけてきた
ファンタジーもメルヘンも幻想もない。
あるのは過酷な現実だけだ。

この作品を年齢層が高い世代がどう感じるかはなんとなく想像ができる。
では今の戦争も昭和も知らない若い世代がこの作品を見て何を感じ取ってくれるのか。
どんな反応を示してくれるのか。
それが楽しみでしょうがない。


【ひこうき雲】